『雪男は向こうからやって来た』

雪男とどういう遭遇をしたのだろうか…

このタイトルからすると、角幡さんは、雪男の存在を肯定しているように思います。しかし、本当に遭遇したらこういうタイトルにはならなかったと思います。ではどんな遭遇をしたのだろうか、それと、そもそも角幡さんと雪男がどうも結びつかない、このへんのところから本の世界に入っていきました。

読み終わり、なるほどさすがだなと感心してしまいました。とてもおもしろかったです。
角幡さんの徹底した取材の積み重ねと現場での体験が浮かび上がってきました。取材した人達の数の多さとその方たちのことば、キャラバン隊で参加した後の単独捜査、その中心にあったのはひとえに雪男です。

雪男の魔力に取りつかれた人たちの熱い世界。雪男に遭遇してしまった人たちのなかには、後戻りができなくなり、その後の人生がガラリと変わってしまった人たちがいる。雪男は向こうからやってきた、というとらえかたに妙に感心しました。そして鈴木紀夫さんの話は興味深かったです。

鈴木紀夫さんという人間を思うと、ルバング島の小野田さんも雪男も、高橋隊長もみな向こうからやってきたといえるのかもしれません。あるシェルパの「雪男に会う人と会わない人がいる」とのことばも心に残ります。この本は、鈴木紀夫さんへの鎮魂歌でもあるような気がしました。

角幡さんの文章はとても読みやすく好きです。文才がある方ですね。今まで数冊読みましたが、どれも生き生きと情景が浮び説得力があります。ご本人が度々言っているように、自分が論理的なものの考えたかをする質の人間だと、それも理由のひとつだと思いました。

次は、『漂流』を読んでみたいと思います。