『天使はブルースを歌う』

 「光の多いところに強い影がある」ゲーテの言葉が浮びます

 

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  たまたまYouTubeでみたなつかしいグループサウンズ特集のなかで、ゴールデンカップスに釘付けになりました。凄みのある姿と音楽はインパクトがありました。

グループサウンズ全盛期、私は10代前半。当時はアイドル系のグループにあこがれていたので、ゴールデンカップスはあまりなじみがありませんでした。洋楽を唄う本格的なバンドだなと思っていました。「長い髪の少女」は好きでした。

 

ゴールデンカップスを検索していくと、山崎洋子がでてきます。あの作家とゴールデンカップスとがつながりません。あまり知らない作家なので、読みやすいエッセイを読んでみることにしました。「誰にでも、言えなかったことがある 脛に傷持つ生い立ち記」です。読んでびっくりです。複雑な生い立ちと、育ちの良さそうな印象とが結びつきません。客観的な姿勢にとても好感をもちました。今度は山崎洋子に釘付けです。

 

ゴールデンカップス山崎洋子が結びついて、「天使はブルースを歌う」を読みはじめました

この本は、戦後の横浜でひっそりと埋葬されていた嬰児たちの事実を取り上げたノンフィクションです。戦後の混迷期、ベトナム戦争アメリカ軍駐留。日本の戦後の飢えた空気と繁栄、戦火に赴く米兵たちの熱気。音楽を通してそんな時代をもろにかぶったカップスの演奏が刺激的でないはずがありません。あの纏った独特な雰囲気は当時の横浜の歴史そのものだったんですね。

わたしが地方から横浜に移ったとき、休みの日には横浜を散策しました。元町、中華街、関内、伊勢佐木町、山下町、黄金町、寿町…。メリーさんも何度か見かけました。馬車道では同じベンチに腰掛けたこともあります。強烈でしたが、風景に溶け込んでいました。表通りは華やかでおしゃれであるけれど、裏通りを歩けば歩くほど、湿った空気や哀しさをただよわせるものを感じていました。

 

「光の多いところに強い影がある」というゲーテの言葉がうかびます。光多く繁栄した横浜には濃い陰があるはずです。

嬰児たちの埋葬の事実を認めない横浜市衛生局への山崎さんの戸惑いと怒りは当然です。臭いものにはふたをするとしたら、国際都市横浜を治める公人にしてはあまりにも貧弱な感覚です。もっと懐の深い歴史感をもった人が治めてほしいと思います。街の歴史は人間の歴史、まるごと受け入れて未来につなげるものだからです。ゲーテも呆れていると思います。

 

この本で、横浜の歴史を確認できたこと、ゴールデンカップスがカッコイイ理由を知ったこと、そして山崎洋子さんに出会えたことが大きな収穫です。つい最近、山崎さんがこの本の続編に当たる「女たちのアンダーグラウンド」という本を出版されたのを知りました。同時に廃刊になっていたこの「天使は…」も復刊されるそうです。これらの愛に満ちた本がたくさんの人に読まれることを願っています。             そして「丘の上のエンジェル」というこの哀しみに寄り添った歌が、歌い継がれていく横浜であってほしいと願います。