刑事マルティン・ベック

スウェーデンストックホルム警視庁の殺人課主任マルティン・ベックの物語 

 

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1、『ロセアンナ』     柳沢由美子訳

2、『煙に消えた男』    柳沢由美子訳

3、『バルコニーの男』   高見浩訳

4、『笑う警官』      柳沢由美子訳

5、『消えた消防車』    高見浩訳

6、『サボィ・ホテルの殺人』高見浩訳

7、『唾棄すべき男』    高見浩訳

8、『密室』        高見浩訳

9、『警官殺し』      高見浩訳

10、『テロリスト』     高見浩訳

 

「一日の終わりの寝床での読書タイム」、イコール、「私のマルティン・ベックが始まるタイム」だったのが、全巻10シリーズを読み終えてしまった。なんともさびしい…。もうマルティン・ベックたちに会えなくなるなんて…。

愛すべき刑事マルティン・ベック、コルベリ、グンヴァルト・ラーソン、エイナール・ルン、それにメランダーにスカッケにモンソン…。

マルティン・ベックタイム」がいかに楽しみで充実した時間だったか。本を開くと、日中の雑事が吹っ飛び北欧の世界に入り込む。おなじみになった登場人物たちが動き出す。

  

 最初に読んだのは『笑う警官』です。なじみのないスェーデンが舞台なので、読みはじめは長い名前が多いのと地理感覚がないので混乱しました。登場人物を紙に書いて整理し、地図を脇において確認しながら読みました。しかしそれは最初だけでした。登場する警察官の人物像がはいってくると、もう釘付け、ページをめくる手が止まりませんでした。

 シリーズが10巻あるとわかると、次は1巻から順番に読みました。1970年代出版ですので、簡単には手にはいらず複数の図書館や古書店で探し手にしました。

このシリーズは、英訳からの重訳の高見浩氏による10シリーズが1970年代に出版されていましたが、近年のミステリブームで、2013年から柳沢由美子氏の原語からの訳で4、1、2巻が出版されました。私は柳沢訳から読んだので、高見訳に移ったときは文体のリズムが違うので戸惑いました。

柳沢訳は、ストレートで直球。高見訳はテンポが遅く、初めは気がそがれもどかしかったですが、日本語の名訳と深みのある表現に立ち止まることがしばしばありました。

名訳より直線的で想像の余地がある柳沢訳の方が自分には合っていると思いましたが、マルティン・ベックもシリーズも後半では年齢を重ねているので、高見沢訳の方が味わいは深くなるかもしれません。訳者の違いも楽しみのひとつでした。

 

 こんなに夢中になった理由は大きく3つ。

ひとつは、人物がリアル。人間味や生活感情、表情や体温や呼吸まで伝わってきました。体臭や体毛までも。見事だと思います。

刑事小説の金字塔と言われているように、刑事気質が魅力的です。

スェーデンの当時の福祉政策をうたった社会の裏側が興味深い。人間の弱さもろさが尾を引きます。10年かけて10シリーズ、マルティン・ベックたちも年齢を重ねます。社会も移り変わります。

 

こんなにはまってしまったので、次の楽しみを探すのも容易ではありません。