『コンビニ人間』

 前々から気になっていた本

 この作品が芥川賞を受賞した時は、味気ない題名にすぐに読みたいとは思いませんでした。しかし気になっていました。なぜならば、私も3年間コンビニでパートをしていた経験があるからです。どんなふうにコンビニが書かれてあるのか興味はありました。

 私がコンビニでパートを決めたのは家の近くだからと軽い気持ちでした。
周りから、「えっ、コンビニ!ほかにないの」「なんでまたよりによって」「その年齢でコンビニ」と言われました。便利なコンビニの恩恵にあずかりながら自分もどこか軽んじているところがあったのは確かです。
実際初めて見ると大変でした。研修もそこそこに本番。小さい店なのに大繁盛店、しかも混雑時間帯のシフト。トイレにいく時間もない。
しかしこの3年間は大勢の人とかかわっただけに思うことや感じることも多かったです。たかがコンビニ、されどコンビニでした。

 この本は、社会との接点がない主人公が、新装開店のコンビニのアルバイトをするようになり、社会に溶け出していく物語です。店内の様子がリアルで、自分も夢中で働いていたときが蘇りました。スピードと清潔と売上(当然)が要求されるコンビニのマニュアルはすごいです。(私も短い間でしたが身につきました。今でもコンビニに入るとついチェックしてしまいます。)
 このマニュアルから垣間見える人々の姿、人間模様が見事に描かれておもしろいです。ヘンな人がでてきますが憎めません。主人公のように人に腹をたてたりすることはありませんが、人の怖さを感じさせます。

「何かを見下ろしている人は、特に目の形が面白くなる。……」
「店長の中で、私がコンビニの店員である以前に、人間のメスになってしまったという感覚だった。」
というところでは、うーん、とうなってしまいました。うなったところはほかにもまだまだあります。
読み応えたっぷりです。

 社会から疎外感を味わう主人公が、あることをきっかけに自分の居場所に気づき「これでいいのだー」と我が道をいく姿は爽快です。現代の一面を描いたいい小説だと思いました。タイトルは「コンビニ人間」まさにこれです。