『ОUТ』

鬱屈する心のゆくえ

『夜の谷を行く』で、桐野夏生に出会い、『顔に降りかかる雨』『デンジャラス』『柔らかな頬』と続き、桐野夏生ワールドにはまりました。
この『アウト』で、立ち止まりました。剛速球が立て続けにきたので、酸欠状態になりました。

それにしても、人物のリアル感は見事です。ぐいぐいと惹きこまれていきます。特に主人公の雅子とヨシエとは、自分と年齢が近いので、共感する感情が多く、目が離せませんでした。

真面目で優秀な信用金庫の事務員だった雅子、貧乏と介護であえぐヨシエ。二人は弁当工場でも仕事がよくでき一目おかれる存在でした。自力ではどうすることもできない社会の壁、運命の壁に鬱屈するものを抱えていきます。それが、一線を越えさせてしまいます。

毀れた人間の怖さ、修羅場には身震いしましたが、絶望していく人間の姿や過程に、なんともいえない切なさを感じました。弱い人間の心理が圧巻です。

自分がもっと若い時に読んだら、別の読み方をしたと思います。少なくとも雅子や佐竹という人物は到底理解できなかったと思います。いや、怖すぎて最後まで読めなかったかもしれません。

──突然、何もかも変わる日がやってくる。今夜こそが、その日かもしれない──
鳥肌のたつ内容なのに、結末はどこか爽快感もあります。それぞれが鬱積したものが、出口に向かったからです。だれもが予想もできなかった自力での脱出の仕方で。

桐野夏生ってどんな人だろうと、写真の顔を見つめてしまいました。強い目をした、きりりと美しい方です。
並はずれた強いエネルギーを持っておられるのは確かですが、私が一番惹かれるのは、自由さと突破力です。他に迎合することなく、本質を見極めようとする姿勢と、常識やタブーを突破する力はすごいなぁと思います。
しばらく間をおいてから、『グロテスク』を読んでみたいと思います。