『凍原』

背筋がゾクゾクしました

桜木紫乃さんのミステリーです。
釧路の湿原で男性の他殺死体が見つかりました。被害者はカラーコンタクトをしていました。その下には青い目……。
犯人はだれか。なぜ殺されなければならなかったのか。青い目が物語るのは…。

私は、すぐにのめり込み、寝不足も恐れず読みふけりました。絶えず胸をゾクゾクさせながら。
しかし、読む進むうち、いつのまにかゾクゾクするのが胸より背筋になったのです。背筋にゾクッとする怖さを感じました。

それは、戦争という悲劇の時代に翻弄された人の姿が、リアルに伝わってきたからです。

釧路、樺太、留萌、小樽、室蘭…と真相を求めての捜査は、北海道に流れ着いた人たちの過去が浮かび上がる、言い換えれば蓋をした過去を暴くことでもありました。

どの人も敗戦の激動の時代を必死でひたすら生き抜いてきました。過去と現在がつながり、事件は解決します。後に残ったのは癒されることのない哀しみです。
ミステリーとはいえ、大きな人間ドラマです。手ごたえがありました。

樺太から引き上げ留萌にたどりつき、懸命に生きた鈴木克子やその従妹のつや子が愛おしいです。
それぞれの無垢でひたむきな横顔が見えるようです。
著者の力量に感服でした。