『月の満ち欠け』

リアル感のあるファンタジー


面白かったです。『身の上話』→『鳩の撃退法』→本作と読んで、いずれも最初は穏やかにゆっくりと入り、やや退屈な感じから、ある時を境に話が急展開しはじめ、その後は一気に読んでしまうというスタイルは同じでした。

私の読書タイムは、夜の寝床です。いずれも猛暑の寝苦しさを吹っ飛ばすくらいの勢いで読みました。

おだやかな日常から、突然人が死んだりする衝撃にヒヤッとさせられます。そこからゾクッとする世界に引きずり込まれていきます。
シャッフルしているような描き方の順序に、混乱しますが、登場人物を紙に書きだして相関関係を整理すると、お見事!と唸ってしまいます。

「生まれ変わり」は、ありえるようなありえないような、だれも結論はだせません。が、この言葉がある以上、こういう死のかたちがあるのかもしれないと思ってしまいます。
生まれ変わりの少女たちは、恐ろしくて不気味ですが、哀しい存在にも思います。生まれながらにして愛しい記憶や愛おしかった人を求めずにはいられない性を背負っているからです。
私の勝手な感想ですが、荒谷親子の存在は余分だった気がします。哲彦と少女たちで十分だったと思います。哀しさが少し崩れてしまいました。

3作続けて読んで感じたことは、この作家は、書くことが好きなんだなあということです。おそらく、かたのときもストーリーを練ることが頭から離れないのではないかと思います。生活のすべてイコール小説を書くこと。
こういうことを感じさせる作家の本は、まちがいなく面白くないはずはありません。