『切り株ものがたり』 

児童書というジャンルがいっぺんに吹っ飛びました

この本の分類は、児童書(小学校中級から)です。一気に読み、あまりに余韻が大きかったので、あらためて本を手に取りながめました。
意外にも発行は2013年とあります。昔の話ですが、古い本ではありません。表紙の絵は市松人形の絵です。
 
たまたまこの作者の『歩き出す夏』(小川未明文学書受賞作)を読み、おもしろかったので、他の作品を読んでみたいと思い、たくさんあるなかで「切り株」という地味なタイトルに、逆に興味をもち、読んでみました。読後、児童書というジャンルが一気に吹っ飛びました。

さすらいの生活を送る山の民と、里の人をつなぐのが、山中の小高い草地にある古い大きな切り株でした。この切り株に少年の手から市松人形が置かれ、代わりに竹笛がもたらされました。ある日、この市松人形が少年の姉の怒りによって、火に焼かれてしまいます。それから少年の運命が大きく転回していきます。

この切り株のあちらの世界と、少年たちが住むこちらの世界を、美しい市松人形が行き来し、そこに深い思いが込められていくという展開は見事だと思いました。

少年の一途な思いと、少女と市松人形の美しさは、圧倒される感があります。火のように激しくて深いお話だと思います。

自分がこどもの時に本当に出会ったら、人生が変わっていたと思います。それほど影響力がある本だと思います。でもきっとこの本を手にとることはなかったと思います。市松人形が怖かったからです。たとえ読んでもどれほど理解できたかも疑問です。

今この本に出会えて、静かな深い味わいに浸れることができました。古い時代の話なのにとても新鮮でした。それは普遍的なものがあるからだと思います。
また、この作者のほかの本も読んでみたいと思いました。