青春の孤独をうめてくれた心の友
この本は、1972年留学を終えて帰国する途中の飛行機事故で亡くなった原葵さんの遺稿集です。残された日記に書かれていた詩や散文がおさめられています。
この詩や散文は、外部に発表するものではなく、葵さん自身が<心の詩>として、日記帳に綴っていたもので、父親である原勝氏は、出版を最初はためらったそうです。あとがきで述べておられます。「出版編集部の…さんから、葵のこの詩その他を発表すれば、葵の親しい心の友ができるのではないかと、勧められ、その意に従うことになった」
まさにこの本は当時大学生だったわたしの心の友となりました。
詩の吐息
その風が どこに吹いていくのか
私はしらない
でも、この風に吹かれて
ふっふっと
詩の吐息をもらしながら
流れていこう
慄えていても
ひとりぼっちになっても
こちらのほうが
いい世界なのだ
詩の吐息をもらしながら
流れていこう
春
どこかに
凝っと
見つめあっている
瞳がある
どこかに
どんなメロディでも
癒されない耳がある
どこかに
いちばん聴きたいことも
呟かぬ
唇がある
あのころ、青春の真只中、取り残されたような焦燥感と孤独を感じ、どのように生きていったらいいのかわからず暗中模索の私に、葵の本は救いの女神ように現れました。
100人の友より分かり合えるたったひとりの友がいればいい、そのたったひとりの友になりました。青春の悩み孤独に、真摯に自分と向き合う同じ若者の姿がありました。この本を深夜に、何度開いたことでしょう。その度に安らぎと力をもらいました。私の青春のバイブルだったと思います。
今は絶版になっているかもしれません。幻の本になるのがとても残念です。この本はいつの世も、迷える青春時代の心の友になってくれるはずです。世の中の本棚にずっと残してほしいと思います。
だいぶ後になって、父親の原勝氏の『定められたその時刻まで』を手に入れて読みました。葵さんの詩を通して何度会話をされたことでしょうか、愛娘を失った深い悲しみと深い愛情に心がうたれました。