『満月をまって』                                     メアリー・リン・レイ文 / バーバラー・クーニー絵 / 掛田恭子訳

木の声をきき、風の歌を編んだ、かごつくり職人のものがたり

 この絵本は、100年以上も前の、アメリカのニューヨーク州のハドソンに近い山間に住むかご職人の話です。
 満月になると、お父さんはつくったかごをかついで、ハドソンの町へいくのでした。月が道を照らしてくれるからです。町でかごを売って、生計をたてていました。
 
 9才になった少年は、ある満月の日、やっとお父さんといっしょに町につれていってもらえることになりました。ずっとあこがれていた町にわくわく心躍らせながら出かけたのです。しかし、町のひとからは「おんぼろかご、山ザル」とひどいことばをうけ、山に住むお父さんたちがバカにされているのをしり、傷つきます。ほこりに思っていたかご作りの仕事がいやになりました。

 そんな少年に、母親はいいます。
「山の木は、私たちをわかっている。ハドソンの人がわかってくれなくたって、かまわないじゃない」

 父と同じかご作り職人のビッグ・ジョーがいいます。
「風は、おれたちには、かごをつくることをおしえてくれたんだ。風はみている。だれが信用できるか、ちゃんとしっているんだ」

 少年は、それをきいて、自分も、風がえらんでくれた人になりたいとおもいました。
おとうさんやビッグ・ジョーたちのように、かごをつくる人に。

 なんてすてきな美しい物語でしょう。日々の暮らしというもの、仕事というものを考えさせられます。
 このかごづくりの職人のつくったかごは、いつまでたってもつかえるかごです。こんなかごがもてたらどんなにいいでしょう。いまでも見ることはできるそうです。実際、アメリカの博物館や民芸品のコレクション、個人の納屋に残っているそうです。機会があったらぜひ見てみたいと思います。今は、十分です。この絵本に出会えたのですから。

 大好きな画家バーバラー・クーニーの絵が、なんともすてきです。物語に対する深い愛情を感じます。一見目立たない絵本ですが、本棚から手にとれば、満月のようにたっぷりとした光に心が満たされます。