『あなたと共に逝きましょう』 

リアルな描写、ずしりときました

 図書館で借りた本です。読んで、自分の本棚に持っていたいと思う本と、そうでない本があります。この本は、持っていたいと思わない本です。だからといって、おもしろくなかったわけではありません。むしろ、とても面白くあっというまに読みました。持っていたいと思わない理由は、リアルで重いからです。

 このリアルで重いからこそ、村田喜代子さんの本に惹かれます。短い状況描写や会話に、臨場感があり、どきっとさせられます。自分のことを言われたみたいに、身につまされることがあります。共感することが多いのです。時には、自分が気づかなかった、気づけなかった感情を見事に露呈してくれます。整理してくれるときもあります。重さは、自分が重ねてきた年齢からきていると思います。
 文体は、乾いていて男性的にみえますが、中身はどっこい、ずっしりとした情感にあふれ女性的です。

 この本は、いつ破裂するかもしれない動脈瘤をかかえた夫と、それを支える妻の物語です。夫の一大事は妻の一大事、いろんな世界の扉を二人で、時にはひとりで開けていきます。いろんな療法にすがりながら、回復していく夫。現実の世界と夢との境界線をたゆたう妻は、夫の回復からとり残されます。夫の順調すぎる回復ぶりに腹ただしさを覚えてしまいます。なぜか……。意識下は単純ではありません。そんな妻に手をさしのべてくれたのはひとりの女友達です。

 今回もそうですが、取材の半端でないことに感心させられます。だから、そのリアル感にぞくぞくさせられるのだと思います。
 人生の後半に、村田喜代子さんに出会ってよかったと思います。