『スクラップ・アンド・ビルド』

感情の動きがリアルに描かれストレートに響く

芥川賞作家の受賞作品です。
タイトルの「スクラップ・アンド・ビルド」からして、どんな古い概念が壊れ、どんな新しい概念が生まれるのかと思いながら読み始めました。
若者と高齢者の話なので、高齢に向かっていく自分にとって、何か勇気や希望をもらえるかもしれないとも期待しました。しかし当然、小説はそんな直線的なものではありませんでした。

「じいちゃんなんか、早う死んだらよか」と毎日口ぐせのようにいう祖父。これに、孫の健斗は、祖父の尊厳死を叶えてあげようと思い実行します。しかし、健斗は祖父の冷凍ピザの奇怪行動やお風呂で溺れそうになった事件から「祖父は生きたいのだ」と確信します。多分に、「死にたい」と発することばは、重いどおりに動けない自分に歯がゆい気持ちと、周りに迷惑かけて申し訳ないと思う気持ちが入り混じったことばなのだと思います。生きている限り、人は深層では生きたいと願うものではないかと思います。
健斗のビルド(再生)に、祖父の存在は、力をかしたともいえます。

自分も、小説のなかの娘と同じように、高齢だった母と亡くなるまでの4年間同居しました。その頃の母と健斗の祖父とが重なりました。今思うと、多くの後悔はあるものの、いろんな意味で自分を広げられた時期だったと思います。死を前にした母の存在の力は大きかったです。建て前と本音のぶつかり合い、自分のなかでもスクラップ・アンド・ビルドがあったと言えるかもしれません。

登場人物の感情の動きがリアルで、ストレートに胸に迫り、余韻を残す小説でした。主人公の健斗と若い作家の視点が新鮮でした。今までにないものを受け取りました。