『空白の五マイルチベット、ツアンポー峡谷に挑む 』                                  

衝撃的な出会い

 忘れもしません。2010年の真夏の暑い日でした。涼を求めて入った書店で出会いました。「チベット」という文字とちょっとおどろおどろしい表紙が目にふれ、手にとってみたのです。とたん、釘付けです。ふと、これはいつの時代の話だろうと、後ろをみたら、びっくりしました。なんと昨年の話、著者は、早稲田大学探検部OBで、30代前半の青年でした。超びっくりでした。今の時代に冒険、探検……?!! それもひとりで?!!

 すぐ買い求め、その夜は、熱帯夜でしたが、暑さなど感じるすきもなく、冷や汗をかきながら一気に読みました。
この作者がヒマラヤの秘境で生死を彷徨っていた2009年の12月に、自分は何をしていたんだろうと思い出さずにはいられませんでした。師走を迎えて煩雑な仕事に追われていた自分の姿がちっぽけにみえました。

 さっそく、地図を広げたり、グーグルアースを見たりして、「ヤル ツアンポー川は、ヒマラヤ山脈の北側斜面に沿って流れ、その後突然南に屈曲し、ヒマラヤ山脈を切り裂いて横ぎり、インドに向かって大きな落差を急降下、インドではプラマプトラ川と名を変える」を、確認しました。私はグーグルアースを見ただけで、あまりの険しさにビビッてしまいました。

 「このヒマラヤ山脈を切り裂くように大峡谷地帯がある、それが全長500?のツアンポー峡谷を作り出している」角幡氏は、この峡谷の未踏の5マイルを探検し、成し遂げ、2度目の単独探検では峡谷を彷徨って極限状態から生還したのです。

 峡谷の激流にカヌーで挑み、亡くなられた武井義隆さんのお話は涙なしでは読めません。父親が川を見渡せる場所に慰霊碑を立てときに蒔いたコスモスの種が、時を経て咲いていた、それを偶然ご両親がテレビでご覧になられたそうです。この偶然は単なる偶然でしょうか。

 この後、他の本も読みましたが、どれも命がけの探検です。ゴールよりも探検をするという行為に意味があるとはっきり言われています。どういう意味があるのか。そのへんに私は惹きつけられるのだと思います。

 今度は、極夜の北極探検だそうです。単独でGPS無しの天測で。角幡さんが、もって帰る未知の世界の話がとても楽しみです。
 ヒマラヤ山脈を切り裂くようにツアンポー峡谷があるならば、私たちの日常を切り裂くように出現した現代の探検家角幡唯介さん、目が離せません。