『星々たち』

哀しい星々の物語に浸りました

 
 9つの短編が収められていて、1つ1つが独立していますが、全体を通して、塚本千春の13歳から40半ばまでの半生が描かれています。その前後に母咲子、娘やや子が描かれていますので女三代記ともいえます。そしてこの3人と関りのある人々の人生をも浮き彫りにしています。

 外ではオリオン座がくっきりと輝く真冬の夜に読みました。

哀しい物語です。情景やこころの動きが伝わって、切なくなります。それが最後の「やや子」の前まで通奏低音のように流れていました。「やや子」ではその調べは消えました。平成への時代の変化もあるのかもしれません。代々続く魂の放浪は終わるのでしょうか。

 薄幸の星の下に生まれた塚本千春ですが、本人はそう思っていません。周囲との比較などとは無関係に、ただただ自分の星を受け入れて生きてきました。

 やや子もそうです。自分の来し方をとらえたことばがいくつかでてきます。
「もともと自分は、名字で家柄や縦横の繋がりを測る生活をしてこなかった」
「始まりも終わりにも、過剰な期待をしない。する習慣がない。肉親との縁が薄いとは、そういうことだ。誰のせいでもない」
 
それでも、いつも冷めているやや子に、ある出会いがあり、明るい兆しが感じられてうれしくなりました。

  図書館司書のやや子は、元編集者が書いた小説「星々たち」に、それが自分の母親の半生だとは知らず思いをはせるのでした。

   「星がどれも等しく、それぞれの場所で光る。
    いくつかは流れ、そしていくつかは消えていく。
    消えた星にも、輝き続けた日々がある。  
    誰も彼も、命ある星だった、
    夜空に瞬く、名もない星々だったー」

 冬の夜空の星一つ一つが強い光を放っているように見えました。
そして、心憎いほどかっこいい構成です。
また桜木紫乃さんの本を読んでみたいと思いました。桜木紫乃ワールドにはまったようです。